心に灯るあかり *あとりえ 悠*

*あとりえ 悠*は妻・一ノ関悠子の小さなステンドグラス工房。妻のつくった作品を写真と文章で紹介します。ステンドグラスのよさが伝えられたら幸いです。

NO.162 次代の準備~静かに歩む

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※今回の作品について

2016年夏制作 『金魚のシリーズ』

吉祥寺のブティック『Paleんtte』さんに納品                             

 

この春から妻は工房で教え始めた。

昨年末の第4回個展あたりから、

もうそろそろ受けることを考えていたらしい。

それにしても急な展開で、

教える人も決まったと後から聞いて驚いた。

 

妻が個展を開いて作品発表するようになってから、

教わりたい、教えて欲しいという声が

寄せられるようになった。

妻の作風を気に入る方々からの声なのだろう。

その都度、妻は

“今はまだ”

“そのうちに”

としか答えてこなかった。

私も、

作品を作る事と人に教える事の両立は大変だから、

作品を作っている今は作品作り中心が良いと言ってきた。

またこのところ妻の作品を求めてくださる方が増え

作品作りが益々忙しくなっているので、

私は当分無理だろうと考えていた。

  

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ところで、

妻は、最初に教わった先生から

作品を作るための技術を教わったと感謝している。

そして、ステンドを教わるということは、

自分の作りたいものを自分で作れるようになることだ

と言う。

この言葉が、

人から依頼されて作品を作る生活になって

重く響くようだ。 

お金をいただいて作品を納めるのに、

もっと良い作品を作る事ができるのではないかという

気持ちがいつも働いているからだと思う。

ブラストや絵付けが必要なら習って身につける!

教わってないからできないというふうには

したくないのだろう。

事実絵付けを習いに5年間都心に通うことになった。

この言葉、

教わりたい人に教えることになって

さらに重く響いているだろう。

 

この教室での活動を通して、

妻のガラスへの思いや

制作者の思いを込めたオリジナルの作品作りが

次代にも引き継がれ

ステンドグラスを楽しむ人々が

増えてくれればと思う。

 

そう願わずにはいられない。

 

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さて、どんな教室になっていくのだろう?

ステングラス*あとりえ悠*に

新しいページが加わることになった。

 

教室の様子を

たまにこのブログでも紹介したいと思う。

『ごくたまに』かもしれないが、

紹介したいと思う。

 

(2016.7.17  記)

No.161 とお(10)の木の灯り~その6「椿のティファニーランプ」

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妻は12年ぶりにティファニーランプをつくった。

日本青年館ホールの『とお(10)の木の灯り』の

デザインと制作が迫る中で

今一度ティファニーランプを作っておきたかったようで・・・

私には驚きだった。

 

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妻の作品を初めて見られた方から寄せられる感想には、

「こんなステンドグラスは初めて見た!」との声が多い。

妻は私たち日本人の求める心象や日本の家屋にあった

作品づくりをしているうちに結果的に

ティファニーランプから大きく離れた。

 

一方で、

ティファニーランプは本当に良くできていてすごい、

世界のステンドグラスの歴史をティファニー氏が変えた、

と妻はよく言う。

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妻は、

デザイン、カット、テープの幅、ハンダ、作業時間など

制作過程でいろいろなことが気になったようだ。

それが、『とお(10)の木の灯り』づくりの準備なのだろう。

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 椿をモチーフにデザイン、型紙作りをし、

作品制作に夢中になる妻の様子を見ていて、

ティファニーには

聖地に向かう信徒の気分にさせるものが

あるのかも知れないなあと

私は勝手に想像した。

 

※妻が過去に作成したティファニーランプです。

 よろしかったらご覧ください。

 http://bit.ly/29GNfcj

 

(2016.7.10 記)

No.160 バラのフロアランプとその制作過程

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お納めに伺い、予定の場所に置いて灯りをいれる。

すると前からそこにあったような気がしてくる。

初めてお納めしたのにそう思えてくるから不思議だ。

 

お納めした帰りの車中。

不思議ね。

妻もうなずいた。

お納め終えた妻の安堵感が伝わってきた。

 

 

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今回のご依頼は、お世話になった方で、

個展にも欠かさずお越しくださっていました。

いつかつくってとお話ししてくださっていて、今回の制作となりました。

お家がそう遠くないこともあり、

作品のイメージやガラス選びやも直接お会いして、

楽しく盛り上がっていました。

 

初めてのフロアランプでベース探しから始まりました。

美しい国産手作りの真鍮ベースを見つけ、

ベースが届いてからあらためてデザインをし直して制作に入りました。

おおまかな制作過程はこんな流れです。

1)作品イメージとガラス選びの打合せ

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2)模型づくりとデザイン・修正

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3)ガラスのカット

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4)サンドブラストピースの作業

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うさぎとタツノオトシゴはご夫妻の干支。それに大事に飼われてきた猫。

5)ガラスピースのテープ巻きとハンダづけ

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6)組み立て~パティーナ仕上げ~磨き

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7)スタンドにつるす

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 お届けして予定の場所に置き、灯りをいれました。

ご家族の皆さまに喜んで頂けて、妻は本当に嬉しそうでした。

この感激があるから、妻はまたステンドに向かうのでしょうね。

頼んでくださった方や応援してくださる方に

妻共々心より感謝しています。 

 

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(2016.6.13 記)

 

No.159 「*あとりえ 悠*カフェ」始めました

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ステンドのご用で我が家に来られるお客さんに

珈琲をお出しし喜んでもらえるのは嬉しいものです。

ステンドを見ながら珈琲を楽しむのもいいなあ。

 

カフェを始めました。

 

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(妻がベランダで楽しむバラ)

 

ー珈琲のあの味をー

10年前同業の先輩の淹れた珈琲の美味しさに感動し、

手ほどきを受けました。

先ず焙煎を教えられたとおりの

道具とやり方と生豆で行いました。

やってもやっても思ったようになりません。

しかも焙煎後のガス台周りは珈琲豆の薄皮が大散乱。

2年半続けましたが、

薄皮掃除の思い出だけ残してやめました。

 

焙煎をあきらめてからは美味しい豆を探しながら、

美味しい淹れ方を模索し続けました。

結局、煎り方、挽き方、淹れ方は人それぞれ。

味もそれぞれ。

私が求め続けたのは10年前に飲んだあの味。

 

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ようやくその味に近づいたような気がします。

苦みほどほど。雑味なし。

豆の旨みを楽しむ珈琲。

お茶のように口に入れたら

喉ごしで楽しめる珈琲の味です。

  

 

ー『カフェ』か『サロン』かー

「お父さん、お誕生日、おめでとう。」と

息子に『cafeから時代は創られる』(飯田美樹著)を

もらいました。

20世紀初頭のパリの名だたるカフェの店主やお客の

あり様が鋭い洞察力で描かれています。

世の中に大きな影響を与えた

ボーヴォワール藤田嗣治ピカソなどの天才は

カフェによって生まれたとも書かれていて、

『カフェ』という名前に少したじろぎました。

 

同書ではサロンとカフェの違いにもふれていました。

実は私は3年前に人の集まる場をつくろうと

思ったことがありました。

それは、ある日、

大学で万葉集を教えてこられた近所の方が

我が家で珈琲を飲みながら万葉の世界を

熱く語ってくださり、

私はリタイヤした人たちが自分のご専門や趣味を

互いに披露しまた聞くのは楽しいものだと感じたからです。

こういう場づくりに我が家のステンドと珈琲が

役立つかも知れないと思いました。

当時の私に時間の余裕も自信もなく

そのままになりました。

このときの私の抱いたイメージは

同書によるとどちらかと言うとサロン的のようです。

 

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私の時間の余裕は3年前より更になくなっていますが、

始められる範囲と内容で始めようと決めました。

「カフェ」に堅苦しさは無用です。

ステンドと珈琲を楽しむ。

それだけで十分です。

名前は『*あとりえ 悠*カフェ』としました。

“時代を創る”ことはなくても

“人と人との温もりは創れる”かも知れません

 

 ーカフェを始めてみましたー

5月29日、「*あとりえ 悠*カフェ」に

2組5名の方がいらっしゃいました。

3月まで私が嘱託でお世話になった元職場の関係者です。

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(近所の評判のケーキ屋さんのものです。)

 

 ご案内には以下のようなことを記しました。

 

どうぞステンドを見ながら、

珈琲をお楽しみください。

このカフェの場が参加者にとって、

心地よいものになるように、

また長く続きますように次のお願いをします。

〇ケーキと珈琲豆の購入代金を頂きます。

 手土産は持ち込まないようお願いします。

〇カフェでのステンドのお買い求めは

 ご遠慮ください。

 見て楽しんでください。

 写真撮影もかまいません。

〇どうぞ、ステンドと珈琲とおしゃべりを

 お楽しみください。

 

私のよく知っている方々なので、

妻には時折顔を出す程度でいいよと

言っていたのですが、

どうも私がお世話になった方々をお迎えしたからか

最後まで同席して会話し、

さらに工房に案内して制作中の作品を見せながら

説明していました。

妻、お疲れさん!

 

 ーカフェの当面ー

妻と私の都合のつく時間に開こうと思います。

たぶん月に1,2度あるかないかです。

0の月もあるでしょう。

これから1年くらいは

お招きしたい方にお声かけしながら

改善を重ねて行くようにしようと思っています。

 

29日のカフェで強く思ったことは

カフェにおしゃべりは大事!です。

(2016.6.1 記)

No 158 とお(10)の木の灯り~その5「木の葉の標本(腊葉標本)」

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日本青年館のポスターを許可を得て転載しました。

『とおの木』は日本青年館ホールにお納めする、

 妻の10作品の灯りに指定された樹木10種。

 赤松、桂、桐、欅、栗、小楢、杉、栃、朴、山桜。

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「これは50年程前

 私が学生時代につくった葉の標本です。」

路上の朽ちてボロボロになった葉を見慣れた者には

驚きだった。

木から採ったままの姿で50年とは。

妻は、

「今、木にくっついている葉よりきれい!」と

感嘆の声をあげた。 

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『あがりこ大王』を訪ねた翌日。

森林組合長さんからのお誘いで森林組合を訪ねた。

組合長室で専任指導員の方にお目にかかり

腊(さく)葉標本を見せていただいた。

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葉を傷めないようにしながら、

一日2回、それを葉の状態を見ながら1ヶ月間

吸取紙に葉を挟んで水分をとる作業が続くとのこと。

さぞ注意力と根気のいる作業だろう。

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作業を通して今も思い出すのだろうか・・・

均一じゃないからね!

大変さがにじんでた。

自然相手はこちらが決めたとおりには行かないということか。 

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それにしても、標本づくりを指導された先生も

すごい方だと思った。

標本づくりを通して学生たちに、

木を愛することと自然とは何かを教えたのだ。

それが50年後の今も教え子の中に宿っているのだから、

本当にすごいと思う。

 

標本を一生懸命作り、今も大事に保存している元学生が

まぶしく見えた。

そう見えるのは、私が学生時代、

担当教官が嘆くほど大学の勉強をしなかったし、

その恩師に60過ぎてもまだおしかりを受けるからかも知れない。

 

それにしても見事な標本だった。

森林組合長室で出会った葉の標本に、

妻と二人で感激した。

 

 

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 三日目は秋田県林業試験研修センターを訪ねた。

森林組合長さんが会議の合間をぬって駆けつけてくれた。

葉の標本をつくられた方はここの元センター長とのことで、

同席され、さらに野外施設をご案内くださった。

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木を巡る感動いっぱいの三日間でした。

木との出会い、

そして、また忘れられない人との出会いでした。

出会った木と出会った人々すべてに

心より感謝申し上げます。

ありがとうございました。

 

行って良かったねえ、

ありがたいねえ。

今日もまだ二人して言ってます。

(2016.5.21 記)

No.157 とお(10)の木の灯り~その4「鳥海山麓『あがりこ大王』の地を訪ねて」

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『あがりこ大王』は

鳥海山麓の湿原奥にある奇怪なブナの巨木。

その場に立って、

この奇怪こそ、

人を惹きつけるのだと思った。

 

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 (奇怪な樹形は多い。)

 

 ご案内の森林組合長さんは、

木の根元で、

木を指さしながら

木の話をしてくださった。

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 炭焼き用に切られても

深い雪に埋もれても

竜巻のような強烈な風に見舞われても

生きて、大きくなろうとしているブナの木。

 

そして、ここでは、木に巻き付くツタさえ

まるで蛇のように

幹にきつく巻き付いているように見えた。

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鳥海山麓湿原は

厳しい自然の中で

必死に生きる木々の生命力に満ちていた。

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ホールの木の灯りをつくる妻は

森林組合長さんの木の話に耳をそばだてながら

『あがりこ大王』への湿原の木道を往復した。

ここに来なければ味わえない木とのふれあいがあった。 

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 当日は森林組合長さんご夫妻に日が落ちるまで

鳥海山を望む一帯を木を中心にご案内いただいた。

互いに夫婦連れで同年代の4人組となり、

妻には気分が少し楽になったかもしれない。

このような配慮にも感謝した。 

 

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この日は晴天で、

雪の鳥海山は格別であった。

鳥海山が眼前に広がるたびに、

妻と私は「おー。」

ひと山越えては「おー。」

見晴らしの良い高原に出ては「わぁー。」

ご案内くださった森林組合長さんの

心憎いばかりのコースどりに

雪の鳥海山も堪能した。

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そうこうしているうちに

八塩山を越えて満開の黄桜の花見会場に着いた。

それがまた見事と言うしかない黄桜だ。

見たことのないような花の膨らみと色具合。

桜に吸い寄せられるように

妻と二人で写真を撮りつづけた。

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しかしさらに驚くべきは、

桜一面の広大な場所に

花見客は私たち4人だけだった。

日曜日の夕暮れ時、

いくら見渡しても他に人は見えなかった。

(昼は歌謡ショーもあり賑わったらしい。)

独り占めの気分で桜を楽しませてもらった。

こんな贅沢は

きっともうないだろう。

 

桜が見頃の公園に夜のとばりが下りた頃

妻のつくった試作(『山桜』)のステンドグラスを

森林組合長さんご夫妻に見ていただきたいと思った。

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他に誰もいない暗くなった公園の東屋。

そっとあかりを点灯した。

ほんのりした明るさと静寂が

あたりをつつんだ。

お二人にホールのあかりのイメージを

妻が話した。

 

喜んでいただけたようで嬉しかった。

 

※この訪問で、森林組合長さんと奥様には

 何から何までお世話になりました。

 貴重な取材の一日となりました。

 本当にありがとうございました。

 また、私たちが鳥海山麓を訪ね、

 森林組合長のご案内を頂けたのは、

 ホール代表と専務のお力添えのお陰でした。

 心より感謝申し上げます。

 

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※『あがりこ大王』の子どもかな?

 根元近くで見つけたブナの芽と種

(2016.5.15 記)

No.156 ブログ4周年「星空のドームランプ~義兄を偲んで」

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(2008年制作 「星空のドームランプ~義兄を偲んで」)

 

今年も5月の連休がきた。

ブログを始めたのがこの連休だった。

息子に手伝ってもらって何とか立ち上げた。

もう4年がたった。

その間息子に二人目が生まれ、すでに3歳。

新しいことはどんどん起きて、月日は流れる。

妻も元気にステンドをつくり続けている。

幸いに見てくれる人もお客様も増え、忙しくしている。

 

出来事は目の前に次から次へと現れ流れていく。

しかし遠い過去の出来事は静かに湧いてくる。

湧いてくると、脳裏にとどまり消えようとしない。

亡き兄のことが思い出される。

 

ブログ第1回目に載せたのは兄を偲んで作った妻のこの作品だった。

(第1回目のブログです。ご笑覧ください。http://bit.ly/1T01Agq )

(このときのブログ作成のてんやわんやを伝える息子のブログです。   http://bit.ly/1VKUOie )

 

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(2009年 第一回個展より)

 

   「兄へ」

四方は見渡す限りの水田。

私の村は小学生十数人の小さな村だった。

高校生だった私の兄は、私たちみんなを山の分校に連れて行き、

「山の子どもたちとも一緒にあそべばえったぁ(遊ぶといいよ)。」と

小さな分校に泊まらせた。

照れながら、私たちは分校の子どもたちと川で遊んだ。

山奥の川の水のあまりの冷たさに驚き、

みんな、悲鳴をあげた。

悲鳴をあげながら、分校の子どもたちとうちとけていった。

遠い昔の夏の一コマがどうしてこんなに鮮烈によみがえるのだろうか。

思い出すといつも兄の顔も一緒だ。

いつも笑顔だ。

 

「村には文化がねえもんなあ。人の暮らすぃには必要だべぇ。」が兄の口癖だった。

村のどこにでもあるような我が家の作業小屋が特設舞台会場となった。

舞台の上に掲げられた横断幕は『村の文化祭』だった。

村中の大人、子ども、お年寄りが押し寄せてきて、

作業小屋は冬なのに熱気で暑苦しくなった。

兄の友達が何人か応援にかけつけ、兄を支えてくれたようだ。

兄も好きな落語を一席。

兄の紅潮した顔とうわずった声を思い出すと、

私は息苦しさと共に胸があつくなる。

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(2015年 市民文化祭)※兄の唱えたあの“文化祭”

 

兄は田舎の農家における長男の宿命を背負いながら、

村を変えようと必死に生きた。

私は小さい頃から兄が大好きでいつも同じようにしたかった。

その兄の生き方が少しでも学べただろうか。

何か少しでもできただろうか。

私はとても自信がない。

 

兄には世話になるばかりだった。

妻との結婚の時は、

兄は夜行で上京し、妻の父親に挨拶してくれた。

兄に会って、むずかしい顔の義父の表情がゆるんだ。

そして、兄は来たその日の夜行で秋田に帰った。

 

結婚してからは、毎年妻と、

子どもが生まれてからは家族みんなで田舎に帰った。

「よぐ来たなあ。えがった、えがった。」と

いつも嬉しそうに迎えてくれる兄だった。

妻も子どもも、田舎と兄が大好きだった。

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(2013年 第二回個展)

その兄が2008年に亡くなった。

葬儀を終えてまもなく妻がこの作品を作った。

私にもとても嬉しい作品だった。

ひとり静かにこの作品を見ていると、

兄にひと言つぶやきたくなる。

「夏の星空だば 綺麗だもんなあ。いっぺぇー、見てけれぇ。」

(2016.5.5 記)