心に灯るあかり *あとりえ 悠*

*あとりえ 悠*は妻・一ノ関悠子の小さなステンドグラス工房。妻のつくった作品を写真と文章で紹介します。ステンドグラスのよさが伝えられたら幸いです。

No.196 日本青年館ホールの「木の灯り」(其の22)~取付工事&ホール見学

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ー取り付けて、取りあえず点灯の確認ー

7月18日、日本青年館ホールは本日竣工です。

関係の皆様、誠におめでとうございます。

 

少しさかのぼって7月10日、

灯りの取付工事立ち合いのため、

妻と日本青年館ホールを訪ねました。

作業はその内容によって担当班があるようで、

灯具担当の方々が取り付けてくださいました。

写真を撮る余裕はなかったのですが、

慌てて何枚か撮りました。

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ー外観とホワイエー

竣工間近でとてもお忙しいさ中建築設計責任者の方が

妻と私を館内やホールをご案内くださり、

恐縮しました。

拝見して驚きました。

現在作るホール、これからのホールは、

こんなにも違うのかという驚き。

感激しました。

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ーホールと楽屋内ー 

ホール見学で一番感じたのは、

たかだかアマチュアの合唱経験しかないのに、

実に畏れ多いことですが、

このホールで歌ってみたい!でした。

ホールのつくりには全くの素人ですが、

充分に横幅と奥行きのある舞台、

傾斜のある観客席にカーブした横ライン、

高い天井と広くて動きやすい照明係用フロア、

音の適度な響きを残しそうな波打つ壁面の木材等々。

見ているうちに、

つい歌いたい感情が湧いてしまいました。

(もちろん歌いません。)

 

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 ー国際教養大学図書館ー

昨春、

「木の灯り」の木などの取材のため、秋田を訪れた際に

木造建築として有名な国際教養大学図書館を見学しました。

傘を広げたような太い梁の下、螺旋に連なる各スペースに、

分類された書庫と個人閲覧スペース。

知的刺激とやすらぐ居心地感。

この図書館なら一日いたいと思いました。

この見学とこの建物設計者の仙田満氏の著書を通じて、

私が理解したことは、

『建物は建築家の人間理解の深さが決める』と言うことでした。

 

仙田氏の著作から私が学んだ

『人に何かをしたいと思わせる建物』づくりを目指すなら、

このホールこそその建物になると思いました。

 

竣工後、多くの出演者と観客と職員の皆様により、

ともに感動を分かち合うホールになるだろうと思いました。

 

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「杉の灯り」と「杉の楽屋」

そのホール楽屋に 「木の灯り」をお納め出来たことを、

誇りに思います。また、この作品にかけた1年半の

妻の思いと積み重ねにも敬意を覚えます。

ことばに出したら

「良かったね」「頑張ったね」

あ~、いつもと変わらない言葉でした。

 

制作中から

「木の灯り」を見たいと言うお声を多く頂きましたが、

関係者以外は入れない場所への設置のため、

見て頂くことが叶いません。

その代わりにはならないと思いますが、

今年初冬には「木の灯り」作品集(写真集)発行予定です。

編集の方のご指導ご支援を頂いて、

妻の思いを届けられたらと願っています。

(2017.7.18 記)

No.195 日本青年館ホールの「木の灯り」(其の21)~最終作品「桐の灯り」完成  

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桐の花は樹上高く房状にして薄紫色に咲く。

地上で直接見ることはなかなか叶わない。

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有り難いことに、

知人から桐の花を納めた氷柱を頂いた。

驚くほどきれいな花。

冷たい桐の花にじんわり人の温もり。

 

「ローズ亭」のオーナーさんからは、

“あそこならまだ桐の花が見られますよ”と。

まさに観察に適した頃合いの花と葉。

目の高さで観察。最高だった。

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花の背景に選んだのは鳥海山

妻と昨春訪れた思い出の山。

私は鳥海山と聞いたとき、

妻と私をご案内下さった森林組合長さんご夫妻の笑顔が、

思い浮かんだ。

 

妻の作品はこうして目で見、手で触れ、

そして人との関わりで図案が出来ていく。

 

妻の作品作りをそばで見ていて、

私にはその過程がもう物語。

いつも悩んで、苦労して、時に喜びを溢れさせて、

その一コマ一コマを紡ぐように作品は生まれる。

 

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この度、ようやく

日本青年館ホールの「木の灯り」全11点、完成。

完成した次の日の朝、妻は、

いつもより遅く起きてきて「よく、ねたー」。

何気ない朝のひと言に、

ようやく出来た安堵感、

プレッシャーから解放された喜びの気持ち、

にじんでた。

私も何気ないままのように、

“よかったねー”と,

ひと言妻に応えた。

(2017.7.9 記)                                                                                                                   

No194 日本青年館ホールの木の灯り(其の20)~「橅の灯り」完成

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「橅(ぶな)の灯り」は

「とお(10)の木の灯り」制作途中に受けた

日本青年館ホールからの追加注文でした。

「ブナ」を制作できることに妻も私も喜びました。

 

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『ぶなの森は緑のダム』。

わかりやすい文章構成で

ブナの森がいかに私たちに大切であるのか考えさせる

小学校の教科書にのっている説明文です。

子ども達と熱心に取り組んだことを記憶しています。

(退屈だと思っていた子もいたでしょうね。ごめんね)

もう30年も前になります。

 

妻も同様にこの文章を気に入っていました。

どこか遠くに行くと、

ブナのあるところに私たちの足は向きました。

 

白神山地のブナ林を歩いたのは6年前。

白神山地は行こう、行こうと言いながら

なかなか実現しなかったのですが、

私の定年退職後やっと行くことができました。

ブナの木立から時折のぞく真夏の青空,

少し汗ばみながら私たちは歩きました。

行き着いた先の小さな沼の青さ、

ブナ林の中で立って見たりしゃがんで見たり、

その青さが忘れられません。f:id:you3113:20170628232858j:plain

秋田の森吉山は広大なブナ林と季節の草花が多く、

妻のお気に入りの場所です。「花の百名山」のひとつです。

私は山頂まで20分要するゴンドラから望む景色に

大満足です。高所恐怖症であることを忘れます。

2度訪ねましたが、妻はまた行きたいとしきりに言います。

私もこのゴンドラはどうと言うことはないので、

「機会見つけていこうね」と余裕で応えます。

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昨年の5月は妻と鳥海山麓のブナの原生林を巡りました。

地元の森林組合長さんご夫妻のご案内で

ブナとふれあう楽しい散策でした。

奇怪な形状のブナを見ながらたどり着いたのは

山道奥の樹齢300年のブナ「あがりこ大王」。

大王のまわりのたくさんのブナの実生(みしょう)に、

私はその一見の弱々しさに生命の神秘さ、

そして逞しさも感じました。

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 ところで、ブナ巡りで妻は何を見たのでしょうか。

 

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この作品に

妻の見たもの、

見たいものがあるのだと思いました。

(2017.6.28 記) 

No.193 日本青年館ホールの木の灯り(其の19)~「楢の灯り」完成

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今回の写真は新進気鋭の若手カメラマンによるものです。

カメラマンへの撮影依頼は、

11月発行を目指して製作に取りかかっている

「木の灯り」作品集の編集・製作者からのアドバイスでした。

確かにプロは違うものだと感心しました。

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各種機材を抱え、重装備で来られるかと思っていたら、

普通だったので少し驚きました。

10作品を撮っている間のやりとりから、

逆にその才能と感覚の良さに驚きました。

 

お昼はラーメンを食べてもらおうと一応ひと揃い準備。

冷やし中華?」「醤油ラーメン?」「つけ麺?」

そうしたら、「醤油、細麺」。

これは若いのに、なかなか!

作るのも楽しくなりました。

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撮影の横尾さん

ありがとうございました。

以上3枚の写真は横尾  涼氏の撮影によるものです。

 

 

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ところで、前回のブログNo192を書いた頃、

私は親友の急逝に落胆していました。

そんな時、たまたま手にした若松英輔氏の本で、

柳宗悦の言葉に出会いました。

 

“悲みのみが悲みを慰めてくれる。
 淋しさのみが淋しさを癒やしてくれる”(送り仮名は原文のまま)

最愛の妹を亡くした柳宗悦だったが、
悲しみの深さゆえ亡き妹に会えるという。


若松氏の文章は続きます。

“悲しみの扉を開けることでしか差し込んでこない光が

人生にはある。その光によってしか見えてこないものがある。”


これらの言葉にふれているうち、

悲しみや嘆きにジタバタせずに、

そのあるがままもいいと思えるようになりました。

人生、そのほうが深いとは言いませんが、

今まで見えなかったものが見えたり、

人生がもう少し楽しくなるのかもしれないと思えます。

 

先人の言葉をかみしめています。

 

(2017.6.19 記) 

No.192 日本青年館ホールの木の灯り(其の18)~落とし文(おとしぶみ)

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山道に転がる虫の丸めた葉。

落とし文(おとしぶみ)と言う。

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あなたへの 想いここにも 落とし文    小池 森

 

忘れようとしても忘れられない

どれほどの想いなのでしょうか。

道ばたの“落とし文”にまた想いが湧き上がるのでしょうか。

 

この句は、大学時代からのかけがえのない親友の急逝を

ある朝突然に知らされ、

行き場のない私の想いと重なりました。

 

そう妻に伝えたら、妻から

栗の灯りに“落とし文”を描いていると

教えられました。

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やや 左のだらんと垂れている葉。

オトシブミという虫が丸めます

 

“木の灯り”の“落とし文”

私は彼の笑顔と会えそうな気がしました。

 

*オトシブミの画像は東北大学生命科学研究科のサイトより拝借しました。

(2017.6.1 記)

 

追伸

突然逝ってしまった彼。

彼に娘が生まれたとき、

私はその娘の名前を聞き、意外さに、

えっ? と聞き返しました。

八木重吉(詩人)の娘も同じ名前だったね”

少し照れながら教えてくれました。

その重吉の書いた詩「雨」は

多田武彦氏の組曲「雨」の最終曲として、

男声合唱団では知らない人はいないほど有名です。

私も大学時代から何度も歌ってきました。

 

この詩は、

彼の生き方だったんだなあ。

あらためて「雨」を聴きたくなりました。

歌いたくもなりました。

 

   

     八木重吉

雨のおとが きこえる

雨がふっているのだ。

 

あのおとのように そっと世のために

はたらいていよう。

 

雨があがるように しずかに死んでゆこう。

 

※多くの人に、聴いて欲しい曲です。

   演奏は学生時代に交流のあった合唱団です。

 https://www.youtube.com/watch?v=1P1EIXd6_20

No.191 日本青年館ホールの灯り(其の17)~「朴の灯り」完成

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 深緑を背にした朴の木の花。

 側面を春と秋のイメージの朴の葉が被う。

 

 この「朴の灯り」,

これで充分なのだが、

意外なことに、私が夜に灯りをともして

何度も見て楽しんだのは

この面の反対側にある芽吹く葉だった。

見終わっても、

何となくまた見たくなるから不思議だ...

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妻が昨年近くの山に通って冬芽から見続けて、

その成長にふれてきて表したのが

この伸びようとする若い葉。

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もともと妻の作品に裏表はない。

だがこの面は青年館ホールの取付は壁側なので、

通る人の眼に触れることはまずないだろう。

(楽屋の出演者がドアを開けた時には、見える!?)

 

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壁側になると、壁に影を映しています。   

 

『出演者はおまえに気づくよ。

  ...だといいな...』

そう言って送り出すんだろうな。

いやあ、こりゃあ、

嫁ぐ娘への気分だね。

(2017.5.16 記)

No.190 日本青年館ホールの木の灯り(其の16)~「橡(とち)の灯り」完成

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まったく、豆太ほど  おくびょうな やつは ない。

もう五つにもなったんだから、よなかに ひとりで

セッチンぐらいに いけたっていい。

ところが 豆太は、セッチンは おもてにあるし、

おもてには 大きな モチモチの木が つったっていて、

空いっぱいの かみの毛を バサバサと ふるって、

りょう手を「ワァッ!」と あげるからって、

よなかには、じさまに ついてってもらわないと、

ひとりじゃ しょうべんも できないのだ。

・・・・・・

(斉藤隆介作「モチモチの木」より)

こんな弱虫豆太ですが、

夜中倒れたじさまのために

ひとりで泣きながらふもとのお医者様を呼びに行きます。

そして、その帰り“勇気ある子どもだけが見られる”という

火の灯ったモチモチの木を見ます。

 

子どもが共感できるお話なのでしょうね。

子どもたちに人気の絵本です。

 

滝平二郎による切り絵がまたいいのです。

どのページも2,3色での絵ですが、

豆太が見た火のついたモチモチの木だけはこうです。

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  ※同書挿絵P26を撮影

まだ妻が若い頃の教員時代、切り絵の魅力にはまり、

勤務校で切り絵クラブを作り、子どもたちと切り絵を

楽しんでいました。

滝平二郎の切り絵の本も何冊か求め、

子どもたちの作品の参考にと熱心に見ていました。

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豆太の見た火の灯った「モチモチの木」、

それが「橡(とち)の木」です。

私が妻の作った「橡の灯り」の作品を見て、

私には予想外の華やかさでした。

深層には「モチモチの木」があったと思えます。

 

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ところで、過日、「木の灯り」の写真集制作ご協力のお願いのため、

「木の灯り」ご依頼の社長と専務お二人にお会いしました。

その時、私はご快諾を得た安堵以上に、お二人の

『働く人が働きやすいホール』の言葉に心動かされました。

裏方と言われる方々へのにじむ気持ちを感じたのです。  

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 「橡(とち)の灯り」が日本青年館ホール楽屋前に灯るとき、

舞台に出る人出ない人それぞれすべての人を

きっと、やさしく励ます灯りになるのでしょう。

(2017.5.5 記)