『あがりこ大王』は
鳥海山麓の湿原奥にある奇怪なブナの巨木。
その場に立って、
この奇怪こそ、
人を惹きつけるのだと思った。
(奇怪な樹形は多い。)
ご案内の森林組合長さんは、
木の根元で、
木を指さしながら
木の話をしてくださった。
炭焼き用に切られても
深い雪に埋もれても
竜巻のような強烈な風に見舞われても
生きて、大きくなろうとしているブナの木。
そして、ここでは、木に巻き付くツタさえ
まるで蛇のように
幹にきつく巻き付いているように見えた。
鳥海山麓湿原は
厳しい自然の中で
必死に生きる木々の生命力に満ちていた。
ホールの木の灯りをつくる妻は
森林組合長さんの木の話に耳をそばだてながら
『あがりこ大王』への湿原の木道を往復した。
ここに来なければ味わえない木とのふれあいがあった。
当日は森林組合長さんご夫妻に日が落ちるまで
鳥海山を望む一帯を木を中心にご案内いただいた。
互いに夫婦連れで同年代の4人組となり、
妻には気分が少し楽になったかもしれない。
このような配慮にも感謝した。
この日は晴天で、
雪の鳥海山は格別であった。
鳥海山が眼前に広がるたびに、
妻と私は「おー。」
ひと山越えては「おー。」
見晴らしの良い高原に出ては「わぁー。」
ご案内くださった森林組合長さんの
心憎いばかりのコースどりに
雪の鳥海山も堪能した。
そうこうしているうちに
八塩山を越えて満開の黄桜の花見会場に着いた。
それがまた見事と言うしかない黄桜だ。
見たことのないような花の膨らみと色具合。
桜に吸い寄せられるように
妻と二人で写真を撮りつづけた。
しかしさらに驚くべきは、
桜一面の広大な場所に
花見客は私たち4人だけだった。
日曜日の夕暮れ時、
いくら見渡しても他に人は見えなかった。
(昼は歌謡ショーもあり賑わったらしい。)
独り占めの気分で桜を楽しませてもらった。
こんな贅沢は
きっともうないだろう。
桜が見頃の公園に夜のとばりが下りた頃
妻のつくった試作(『山桜』)のステンドグラスを
森林組合長さんご夫妻に見ていただきたいと思った。
他に誰もいない暗くなった公園の東屋。
そっとあかりを点灯した。
ほんのりした明るさと静寂が
あたりをつつんだ。
お二人にホールのあかりのイメージを
妻が話した。
喜んでいただけたようで嬉しかった。
※この訪問で、森林組合長さんと奥様には
何から何までお世話になりました。
貴重な取材の一日となりました。
本当にありがとうございました。
また、私たちが鳥海山麓を訪ね、
森林組合長のご案内を頂けたのは、
ホール代表と専務のお力添えのお陰でした。
心より感謝申し上げます。
※『あがりこ大王』の子どもかな?
根元近くで見つけたブナの芽と種
(2016.5.15 記)