心に灯るあかり *あとりえ 悠*

*あとりえ 悠*は妻・一ノ関悠子の小さなステンドグラス工房。妻のつくった作品を写真と文章で紹介します。ステンドグラスのよさが伝えられたら幸いです。

No.20 軽井沢~野の花の灯り~

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2008年秋、軽井沢の野の花をモチーフにした灯りのご依頼をいただきました。


ご依頼主は軽井沢の自然と野の花をこよなく愛する素敵なご婦人です。
手書きのメモでくださった植物は八つありました。
サクラソウ・スミレ・カワラナデシコ・フシグロセンノウ
キンミズヒキ・ホタルブクロ・モミジ・サザンカ(富士の峰)
どれもたくさんの思い出がある木やお花なのだそうです。
いろいろ調べていくうちに桜草は軽井沢の町花であることや町立の植物園が詳細な図鑑を発行していることもわかりました。
ご婦人のお人柄とモチーフたちの可憐さに魅せられて製作への意欲が高まりました。


その翌月に燃えるような紅葉の軽井沢と改築前の別荘に案内していただきました。
住まう夏にはそのお庭は緑に覆われると聞きました。
野の花の灯りはその時にイメージできました。

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サンドブラストの試作もいくつかするたび、見ていただいては作り直し、
それでもイメージが乏しくて、6月にはまた軽井沢に行きました。
植物園を回り、お花や葉っぱのスケッチをしたりしました。
ご婦人の思い出の家屋にも行ってきました。
お花の美しさやご依頼主さんの思いに触れて、とても感動しました。

 

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ご依頼主さんが心の中に大切にされているこの野の花たちを少しでも思いに近づけたくて、何度も何度も色を変え、彫りを試みて、ご依頼から1年後に完成することができました。

 

東京は猛暑の夏の日、涼しい軽井沢の別荘にお納めしに行きました。
電気屋さんを待つ間、テラスでお茶を飲んだり、フシグロセンノウの咲くお庭を散策したりしながら楽しくおしゃべりしました。

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この灯りは私にとって心の大きな宝物となりました。
魅力的で学ぶことの多いご依頼主さんとのご縁に感謝しています。
またこちらでお食事したり、夏には軽井沢を訪ねていっておしゃべりをしたいと思います。

   写真&文(2009) ステンドグラス*あとりえ 悠*

 

~ちょっと違いますね・・・~

 

ご依頼主の要望を聞いた後、妻はデザインや試し彫りを提示したところ、

「ちょっと違いますね。」とご依頼主はおっしゃたそうです。

そうおっしゃられても妻には具体的なイメージがでてきませんでした。

 

妻の願いで二人でご依頼主がおっしゃっている軽井沢の草花を直接見に行くことにしました。

妻は「可愛い花なのに、こんなにたくましい葉っぱなのね。」

「なでしこと似てるけど葉の付き方が全然違う。」などと一生懸命に見てスケッチしていました。

さらにご依頼主にご紹介されていた資料館にも寄りました。

そこには、ご依頼主の母方の旧家の果たした軽井沢発展への貢献を読み取れる資料がありました。

ご依頼主がいかに軽井沢を愛し、誇りに思われているか、その深さを想像せずにはいられませんでした。

その背景があっておっしゃった軽井沢の草花8種だったのですね

参りました。

この思いを灯りで表現するのです。

妻は彫りも今のままでは不十分と考え、さらなる挑戦に取り掛かりました。

 

「ちょっと違いますね」

この一言から妻は、ステンドグラスを求める方の思いの深さと妥協はないという極めて当たり前で最も重要なことを実際に学んだと思っています。

お納めするまでご依頼主は妻の試行錯誤で前進していく様にお付き合いくださいました。

この方のこの一言で妻のステンドグラスづくりが一歩深まった思い出の作品です。

 

※おまけ 

ここまで書いて、終わり!

と思ったら

「ほら、お父さん,学生時代に一緒に旧軽銀座を歩いたわよね」と横で妻の声。

そういえば、そんな遠い思い出もありましたね

      2012.8.31記