「胡蝶蘭」
「カトレア」
2007年春に退職してガーデニングに埋没する日々の中、電話がかかってきました。
田中さんからでした。
田中さんは2004年のグループ展で私のステンドグラス(青い藤のランプ)を気に入られ、購入して下さった方です。
その時に、「これから家を建てるので、この灯りにあったステンドもお願いしたい」とおっしゃってくださいました。
その後連絡はなく、私もステンドに取り組むことができない状態だったので、それきりになっていました。
「やっと家が建つことになったので、お願いできますか?」
下見に行って驚きました。
全国各地の老舗旅館や古民家や骨董屋などをまわられたりしながら3年もかけて建てたお家です。
田中さんの思いが隅々にまで感じられる見事なお住いでした。
ご依頼の作品は、ご主人が蘭の収集・栽培をされているので蘭のモチーフでということでした。
ひだ邸のパネルをやっていてよかった。
ボタニカルアートをやって(ほんの少しですが)いてよかった。
それから、ほんとうに3年間も大切に作品を思ってくださっていてありがたかった。
この方は私の作品を初めのうちから好きだと言ってくださって、たくさんの作品をご注文くださっています。
「見なくてもあなたの作品はどれも好き」と言ってくださる方で、どれだけ励まされ、勇気づけられてきたかわかりません。
納めた作品は宮大工の方が丁寧に枠組みして壁にはめこんで下さいました。
たいへん優れた技をお持ちの棟梁で、田中さんの望まれた通りに私の作品を一気にお住まいに溶け込ませてくださいました。
(この文章は今年6月に大阪教育大でお話しさせていただいた原稿より抜粋しました。)
写真(2007)&文(2012)ステンドグラス*あとりえ 悠*
「精神的支え」
田中さんは妻の作品を多数求めてくださいました。
妻はどんなにか田中さんに励まされ、育てていただいてきたことか。
かつてヨーロッパでは芸術家が、経済力があって芸術に造詣の深い方の支援を受けた話はよく聞くことです。私はそれを芸術家が活動をしていくための経済的支援と捉えていました。
しかし、作品を求めてくださる田中さんに対する妻の様子や言葉から見方が変わりました。
もしかしたら、「あなたの一番つくりたいもの、一番表現したいものをしていいですよ」という精神的支えにもなっていて、実はこちらのほうが芸術活動により大きく寄与していたのではないかと思うようになりました。
妻が芸術家だとは思いませんが、作品を創造していく過程での悩みを見ていると、田中さんの存在は妻にとって間違いなく精神的支えになっています。生身の人間が新たなものを生み出す営みは容易なことではありません。精神的な支えがあって行えることでしょう。
田中さんへの一番の感謝はこのことです。
同様に他の方にも妻は支えていただいています。それは精神的支えです。
いつも感謝しております。
2012.11.19 記