「製作中のパネル」
長野八ヶ岳原村の別荘に入れるステンドグラスのご依頼をいただきました。
ご依頼主さまの故郷である長野に終の棲家として建てられるお家で、こだわりの注文住宅です。
東京でお打合せの後にすぐ現地を見たくて、9月の半ばに依頼主さまと一緒に新築工事の始まったお宅と周辺を拝見しに伺いました。
初めて訪れた原村は、広々とした農場と抜けるような青空が美しく村のあちこちから美しい八ヶ岳連峰を望むことができる素晴らしい所でした。
東京はまだまだ残暑が厳しいのに、原村の空気はさらさらと涼しく高原の風はとても爽やかでした。
別荘の前はせせらぎでした。周辺は白樺林で可愛い野草もたくさん咲いていました。
現地で施工主のブレイスさんとも打合せして、ステンドを入れる場所と大きさを決めました。
一つは二階の洗面室のスリット窓。
信楽で求められたというブドウ柄の洗面鉢を見た瞬間に、それに合わせた青いガラスでブドウ柄を作ろうと思いました。
もう一つは一階のリビングに欄間のように入れるステンドです。
長年、八ヶ岳を愛してこられたご依頼主様はその景色をステンドにとご希望されました。
大切にされている白樺の版画は春と秋の組作品は当初ステンドを入れたかった玄関に飾るとおっしゃって見せていただきました。
その白樺と山々の景色を重ねた画像が浮かび、そんなステンドグラスを楽しんでいただきたいとイメージしました。
一日、原村を見てまわってその魅力に取りつかれ、写してきた写真やいただいたパンフレットを何日も見てイメージを固めました。
原村から見える八ヶ岳と白樺は再度スケッチしに行こうと決めました。
10月半ばにブドウのガラスの試し彫りと白樺越しの八ヶ岳のラフデザインを持って、もう一度伺いました。どちらもOKをいただいて細かい打ち合わせを済ませた後、農場でスケッチをしたり、白樺の木や葉っぱを観察したり、原村のビューポイントを歩いて回りました。
しかし、イメージしている「白樺越しの八ヶ岳」の風景になかなか出会えませんでした。
何時間も歩いて山を越えたら、突然ぱっと視界が開けて白樺の向こうに八ヶ岳が現れました。
これ、これ、これです~。
「訪れた日の白樺越しの八ヶ岳」
初めての風景のステンドグラスでした。
型紙に起こすのに「空のラインは葉っぱと雲のラインで決めること」「遠近感が出るように色彩を工夫すること」が大きな課題でした。
水彩と切り紙を使って下絵を描きました。
ガラスは選んだものをカットして置いてみるとイメージと違ってしまい、色合いや彩度・明度を変えて何回も選びなおしました。
そうしてやっとガラスが全部はまりました。
春と秋の白樺を両側に配し、移りゆく季節と時間と光を込めました。
この後、周りを雪の白いガラスで囲みます。
写真&文(2013.1) ステンドグラス*あとりえ 悠*
「空の思い出」
一連のパネル作業の後半、妻は当初から決めて購入していた空のためのガラスをカットして置いてから「これがどうも合わない」と悩んでいました。「青が強すぎる」...と。
「そうだ。空は恐ろしいんだ」と私ははるか遠くになった自分の経験を思い出しました。
折角、丁寧に描いて順調にいっていた風景が空に青色の一筆を入れたとたん “雨が降りそうな青空” になったこと。目の前の衝撃的展開!空の本当に困った記憶です。でも、クラスにはもう一人か二人は同じ人がいて「分かる、分かる。そのつもりじゃなかったんだよね」となぜか仲間意識も芽生えます。(そのうち教室掲示された自分の絵を見て「あいつも私を仲間にしてるだろう」とやがて連帯意識のような気分に高まっていきます。)
さらに、私には、小学校低学年の時、近隣5町村の図工展覧会に学年代表で出展するために放課後4人残されて絵を描くようになった3日目、担任に「もう残らないで帰っていいよ」と言われたことが図工体験のとどめとしての記憶があります。
今回そんな自分の過去に重ねて、「妻は大丈夫か」と勝手に心配しました。
妻に「できた!」と言われて作品を見た時、私は「良かった!」と一人いつになく大いに感激しました。
(2013.1.14記)