心に灯るあかり *あとりえ 悠*

*あとりえ 悠*は妻・一ノ関悠子の小さなステンドグラス工房。妻のつくった作品を写真と文章で紹介します。ステンドグラスのよさが伝えられたら幸いです。

No.38 薔薇のウェルカムボード

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初めて製作する結婚式のウェルカムボード。
大きな薔薇の花があしらわれたふんわりしたドレス。長いトレーン。そこに丁寧に縫い付けられたパール付アップリケとレース模様…美しいウェディングドレスからイメージしたデザインです。

 

大切な日に身にまとうドレスとハーモニーを奏でていっそう花嫁が輝き、
いつまでも心に残る温かな式になりますように。
そしてそれがいつまでもよき思い出となりますように。
長い人生を二人で力を合わせて築いて幸せに歩むことができますように。

 

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アップリケとレースの模様をそのままサンドブラスト彫刻で彫りました。選びに選んだ被せガラスはフリモントの優しい淡い赤いガラス。薔薇の花は結婚式にふさわしい純白、新婦の好きなピンク、お色直しのドレスとフリモントの赤に合うような複色のオセアナガラスを選びました。ドレスには白・アイボリー・キラキラ光る透明なリップル・フリモント等々...美しくて希少なガラスをちりばめました。右下隅には小さくサムシングブルーも入れました。
メインになる薔薇の花は柔らかでふくよかなデザインにしようと試みました。そのためにガラスカットでは無理のある刳れた曲線を少なからず描きました。小さな花びら1枚に30分以上もかけて研磨機で少しずつ削ってえぐってつくったピースもありました。細心の注意を払っていたにも関わらず最も困難だった1ピースを床に落として割ってしまい、再度作り直しました。

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中央部のミラー部分は隅だけをはんだ付けして取り替えられるようにしました。
メッセージと日付・名前を彫ったミラーは式後は別の額縁に収め、代わりに普通の鏡をカットして入れ直し、末永く自宅で使ってもらえるようにしました。

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いつものことながらデザインにはたいへんな時間がかかり、ガラス選びも二転三転しましたが、挙式の4日前には完成し、ほんとうにほっとしました。このウエルカムボードはいつも以上につくることの喜びもしみじみと湧きあがる作品でした。
写真&文(2013.1.29) ステンドグラス *あとりえ 悠*

 

 

        「娘へ」
娘が4歳の冬だっただろうか、家族4人で温泉に行った。
明け方、娘を誘って朝風呂。
部屋に戻る時、「朝日を見ようか」と5階の非常口から娘を誘って外に出た。
ガチッ。
「お父さん、・・・音がしたよ」
「おー、したねえ」
「ドア、閉まったみたい・・・」
「えー、あっ? ドア、開かない!」
「お父さん・・・」
ドアをガチャガチャさせたがびくともしない。
何で温泉宿が非常口を自動ロックなんかにするかな!?
娘には「大丈夫さ。非常口は外に出られるし、部屋にすぐ戻れるから」と。
「・・・」
「寒いけど、階段降りて玄関から入ろう」
外は確かに寒かった。雪も降らないのに屋根も地面も霜柱で真っ白。
温泉につかって温まる予定だったので身を覆っているのは薄い浴衣。娘はパジャマ。
非常口を降りてすぐ宿の部屋に戻れるはずが、
降りた場所は宿の敷地外。おまけに柵があって入れない。
「こっち行けば玄関あるだろう、行こう」私と娘は小走りに玄関目指した。
なのになぜか玄関は現れず、住宅ばかり。数十メートル進んで玄関なく。曲がってさらに数十メートルでも玄関なく、さらに数十進んでも玄関なく、やけくそでさらに数十メートル進んでやっと玄関。冬の早朝の温泉町を薄い浴衣着とパジャマの親子はスリッパパタパタと疾走した。玄関に着いて分かった。非常口を降りて左に行かず、右に行っていれば玄関は目と鼻の先だったと...
失敗こそ得るものは大きいということか。玄関をくぐると「ふあー」と温かな空気。

それだけで私と娘は感動した。

 

つき合ってくれたその娘が花嫁になった。

妻のウエルカムボードが娘の式場に飾られた。

「幸せになってくれよ」

お前が娘で、お父さん、幸せだったよ。

(2013.2.2嫁ぐ日 記)