個展初日の夕刻前、
初老のご婦人が
ショーウィンドウの「鷺草のパネル」を
外からのぞいていらっしゃった。
向きや角度を変えながら、
あまりに熱心なのぞき方につられ、
私もギャラリー内から
作品の照明の角度を少し変えて差し上げた。
その光の変化に気づかれたのか、
ご婦人はこちらに目を移され、
ありがとうっと微笑まれた。
その目を見て
私はその方が誰かに気づいた。
4年前の前々回の個展の時、
貴女の作品には、日本人の情緒があるわ、
そう妻を励ましてくださった
小川三知さんの縁戚の方だった。
小川三知は、
妻が最も憧れるステンドグラス作家。
明治末、大正、昭和の時代に
日本の風景をステンドグラスで表現され
今も日本のステンドグラス界で
高く評価される偉大な作家。
三知の作品にふれながら育ってこられた方からの
励ましの言葉に妻はいたく感激。
※妻のもっている本の表紙
その日、妻は私に
小川三知の作品の素晴らしさを訴え続けた。
確かに、欧米で生まれ発展した技法・文化から
日本人のもつ郷愁を細やかに表現した作品を残した功績は
ステンドグラスでは他に例がないだろうと思った。
この方の存在が妻の励みになっていることも知った。
※小川三知の六枚組障子「四季」より欅 大正11年
個展には出会いがある。
それが妻の作品づくりを支えていると思うと
私はその出会いとそれらの人々に
ただ感謝するばかりである。
『個展余話その2』
妻は個展に伴うご購入作品送付、注文作品準備、
それに展示でお借りした作品返却と忙しいので、
片づけが思うようにいかず、
今も私がテレビを見るのに
段ボールの山ががちょっと邪魔。
だが、この山の一角があって
時間がゆったり流れているように思えてきた。
・・・この山も悪くないようだ。
(2015.12.13 記)