心に灯るあかり *あとりえ 悠*

*あとりえ 悠*は妻・一ノ関悠子の小さなステンドグラス工房。妻のつくった作品を写真と文章で紹介します。ステンドグラスのよさが伝えられたら幸いです。

No.280 行灯「紀の川」2021

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 行灯「紀の川」2021:初代は行灯「紀の川」(2013年制作)

モチーフは室町時代舞楽装束の薔薇文様。

600年も前の日本にあったこの文様が、

西洋で生まれた硝子に彫られ、

今この時代の私達にもみずみずしさを感じさせます。

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ご依頼者は我が家に来られたその時に、

玄関に置いてある行灯「紀の川」に

一目惚れされていたそうです。 

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人と作品との出合いは様々です。

作る人とモチーフとの出合いもまたいろいろです。

私は妻がよくぞこの「薔薇文様」にたどり着いたと、

その偶然に感謝しています。

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室町時代舞楽衣装「薔薇文様」

 

たまたまの偶然が重なり…

偶然の七つ目が二人で尋ねることになった高野山の宝物殿。

妻はここで

紀の川」のモチーフとなる薔薇文様に出会いました。

出会いは必然かなあ…

私は妻の薔薇文様の作品を見る度に思ってしまいます。

硝子を通る光で表現される薔薇文様が

あまりに素敵なのです。 

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薔薇文様に出会ってから

薔薇文様をモチーフにした作品を数多く作ってきました。

素人目には、制作は面倒くさそうです。

まん丸の硝子ピースを作り、

下絵を描いたシールをカットし、それを彫刻。

その丸いピースの周囲の大きなピースもまた面倒そうです。

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一枚の硝子に描かれたように薔薇をはめるために、

受ける硝子だけ見ると摩訶不思議な形状になります。

また、世界最高と言われるフリーモントの美しい硝子を

使うことが多いのですが、

厚さが2~6mmと一定してないので、

グラデーションを損なわないように

繋げてカットする苦労もあるようです。

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薔薇文様のモチーフで

多くのご依頼作品を作ってきた妻ですが、

いくつ作ってもこの刳れのカットは緊張するといいます。 

 

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左:行灯「紀の川」2021     右:行灯「紀の川」(0013年制作)

ご依頼の行灯「紀の川」2021が完成した翌日、

我が家の初代の行灯「紀の川」を並べてみました。

ご依頼の方のご要望を伺いながら作った行灯「紀の川」2021。

ほぼ同じ行灯なのに、

表情がすでにご依頼者を向いているように思いました。


この作品は

お仕事を現役でご活躍されているお母さまへの

贈り物として、ご依頼者からご注文をいただきました。

 

喜んでいただこうと

妻はサプライズでサイドには麻の葉文様を入れました。

麻の葉文様はよく育つと産着等に利用されてきましたが、

他にも無病息災や長生きなどの願いで使われる文様です。

今般、人気になっている文様でもあります。

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正面上部の大きなピースは、

元の作品は桃ですが薔薇をご要望されました。

美柑のピースは同じ硝子がなく、彫り方を変えました。

他の薔薇文様の色もお好きな色合いを選んで

いただきました。

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一見同じように見える行灯「紀の川」ですが、

妻とご依頼者の話し合いをしながら作る過程に置いて、

更にご依頼者のお気持ちもがこもる作品になって

いくようです。

これが、できあがったときに、

ご依頼者を向いている作品に見える原因なのかも

知れません。

 

もう少し詳しく言うと、

ご依頼者のお母さまを向いている作品になったように

思います。

 

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ようやく完成しました。

お待たせしました。

(2021.5.5 記)